現在,国内における変電機器の耐震設計は,1964年の新潟地震,1968年の十勝沖地震,1978年の宮城県沖地震などの被害経験から,電気設備の耐震性に対する社会的関心の高まりを背景に制定された民間規格であるJEAG 5003「変電所等における電気設備の耐震設計指針」(制定時は耐震対策指針)に基づき実施されている。近年においても1995年の兵庫県南部地震や2007年の新潟県中越沖地震,2008年の岩手・宮城内陸地震などの大規模地震が多発したが,いずれの地震においても,同指針に基づき設計された変電機器に電力の供給に重大な支障をきたす大きな被害は認められておらず,今日では同指針が全国の標準的な変電機器の耐震設計指針として広く浸透している。
2011年3月11日には,三陸沖を震源とするマグニチュード9.0という日本観測史上最大規模となる東北地方太平洋沖地震が発生したが,変電機器の被害に伴う著しい供給支障は発生しておらず,原子力安全・保安部会電力安全小委員会電気設備地震対策ワーキンググループにおける評価の結果,現行の変電機器の耐震指針の妥当性が認められた。一方,同指針の想定を上回る地震動により,同指針に基づき設計された変電機器においても一部損壊等の被害が発生しており,この経験で得られた知見ならびに近年の地震観測データを再分析することによる合理的な設計地震力,設計手法の確立に向けた検討ニーズが高まった。
そこで,従来国内の変電機器の設計で採用されてきた擬共振法から海外の変電機器の耐震規格や国内の主要耐震関連規格にも採用されている応答スペクトルに基づく設計手法の採用をはじめとした,以下に示す研究内容および成果を本研究報告として提言する。
(1) 東北地方太平洋沖地震を踏まえた課題
○東北地方太平洋沖地震の被害実態を取りまとめた。
○より最適な設計手法の検討に向け,被害実態を踏まえた検討課題を抽出した。
(2) 耐震設計最適化に向けた耐震関係規格調査と変電機器の耐震設計に関する実態調査
○国内外の耐震関連規格の規定内容を調査した。
○変電機器の耐震設計に関する実態調査を実施した。
(3) 近年地震観測データの分析による設計地震力の検討
○近年国内で観測された地震データをもとに,現行の設計地震力のレビューと,新たな設計地震力の提案を行った。
(4) 設計手法の最適化の検討
○国内外の耐震関連規格の規定内容や各社の実態をもとに,新たな設計地震力に対応する最適な設計手法の提案を実施した。
○新たな提案手法を適用するにあたっての現行機器設計への影響を調査するとともに,有効な耐震対策の取りまとめを実施した。
(5) センタークランプ方式ブッシングの解析手法の高度化
○現行の耐震解析評価で用いるkf値(非線形/線形モーメント比)について,加速度応答スペクトルにも対応できる新たなkf値を解析により再計算し,提案した。
○ファイバーモデルを用いた非線形解析手法の確立に向けた検討を実施した。