概要
近年,わが国においては地震や台風といった自然災害が大規模化・高頻度化している傾向にあり,これに伴うライフラインの被災が社会機能や国民生活に大きな影響を与えている。特に,ライフラインの1つである電力の供給停止が国内全体に与える影響は甚大であり,電力の安定供給を使命とする電力会社は,大規模化する自然災害に対して災害を未然に防ぐ防災力と,被災後速やかに復旧させる早期復旧力を強化する必要がある(以後,本書では防災力と早期復旧力を合わせてレジリエンスと呼称する)。
各電力会社は,給電用電話回線や電力系統保護回線など,電力系統の監視・制御に必要な通信ネットワークをそれぞれ管理しており,総称して電力用通信ネットワークと呼んでいる。電力用通信ネットワークは,災害時の電力供給や早期復旧において重要な役割を持っており,これらのレジリエンスを強化すべく,各電力会社ではこれまでさまざまな対策を講じてきたところである。
電力用通信の災害対策としては,2009年に電気協同研究会から「電力用通信における防災対応技術」を発刊しており,その中で電力用通信における防災対策ガイドラインをまとめた。しかし,ガイドラインをまとめてから10年以上が経過しており,その間に東日本大震災をはじめとした,これまでに類を見ない大規模災害が頻発しており,当時制定されたガイドラインの内容を見直すべき時期を迎えている。
そこで,2009年以降に被災した各電力会社における電力用通信設備の被害状況を収集し,2009年のガイドラインにて示されている対策の実施状況およびその効果を調査した。また,今後発生が予想される大規模な自然災害への対策状況と,被災時の災害復旧対策設備および手段,電力業界以外の事例や海外の事例,最新の防災技術動向の調査や分析を行い,電力用通信における防災対策ガイドラインを見直すとともに,電力用通信のレジリエンス強化に関する今後の課題を整理した。