【概要】
大規模で複雑な電力系統を安定かつ効率的に運用するための通信手段として,電力会社
では高品質・高信頼度なマイクロ波通信システムを基幹通信網の重要な設備と位置付け構
築・運用してきた。
マイクロ波通信は,電力系統の事故・故障や自然災害の影響を受けにくく,安定した通
信を実現している。近年発生した阪神・淡路大震災や東日本大震災では,光ファイバなど
有線系の通信設備が被害を受ける中,マイクロ波通信システムは回線断に至る被害を受け
ず,地震発生直後の電力供給・復旧支援に大きく貢献した。
重大な被害をもたらす災害時にも確実に通信できる基幹通信網として,マイクロ波通信
システムの重要性はますます高まっている。今後も安定した電力供給を担う重要な通信シ
ステムとして位置付けられるには,これまでと同様に,信頼性の維持・向上や伝送容量の
大容量化など技術革新へ向けた継続的な取り組みが必要となる。
また一方で,電力システム改革に伴う競争激化を見据えた更なるコストダウンや,大規
模工事の機会が減少する中での技術力の維持・継承など,新たな課題への取り組みも必要
となる。
このような状況を踏まえ,将来に亘り電力用マイクロ波通信に求められる責務を全うす
るため,本報告書では,「技術継承」を最大のテーマとして,マイクロ波通信システムの
現状や前述した諸課題への対応及び今後の展望についてとりまとめた。
本報告書は,7つの章で構成されている。第1章では,本専門委員会の目的や研究報告
の概要についてまとめた。第2章では,戦災の復興期から電力の安定供給を支えてきたマ
イクロ波通信システム発展の歴史を振り返った。第3章では,マイクロ波通信システムの
施設状況や稼動実績などの実態を整理・分析した。第4章では,低廉な電気の供給に資す
るコストダウンの取り組みについて具体策を示した。第5章では,技術力の維持・継承の
観点から,新設工事をモデルとして,設計,施工,保守運用に至るまでの全般的な技術・
ノウハウについて記載した。第6章では,保護リレーシステムのIP化など利用ニーズの多
様化や技術進展への対応について記載した。第7章では,将来展望として,マイクロ波通
信システムの将来像を示した上で,実現に向けた課題について記載した。